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新聞・雑誌抜粋記事 -コンタクトレンズの安全性を問う-

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本ページに掲載いたしました「特集 子どもの目の健康をどう考えていくか」の「コンタクトレンズの安全性を問う」は健学社の「学校保健フォーラム」2001年10月号Vol.5 No.44に掲載されたもので、健学社のご好意により転載させていただきました。

特集 子どもの目の健康をどう考えていくか   コンタクトレンズの安全性を問う

はじめに

学校健診で視力低下を指摘された生徒の屈折検査を行うと、矯正を必要とする近視や遠視,乱視などの屈折異常がみつかることをしばしば経験する。その際に眼鏡を勧めても嫌がる生徒が目立つ反面、コンタクトレンズ(以下CL)の使用を望む生徒が増えてきた。 CLは屈折異常の有効な矯正手段であるが、眼鏡と異なり黒目(角膜)に直接触れるため、適切に処方されたものを正しく使用しなければ目に障害を生じる。特に、CLの普及に伴い、高校生だけでなく中学生や小学生にもCLを使用する生徒が増えているが、これに伴い若年者の障害も数多く認められるようになった。

1.CLの種類

CLには大きく分けてハードコンタクトレンズ(以下ハードCL)とソフトコンタクトレンズ(以下ソフトCL)がある。ハードCLには酸素をまったく透過しない材質のレンズと酸素を透過する材質のレンズがある。ソフトCLには従来型のレンズと使い捨てレンズや頻回交換レンズがある(表1)。
ハードCLは文字通り硬いため、目に入れると当初は異物感があるが、徐々に慣れてくるとその異物感は感じなくなる。ただし、涙の量の少ないドライアイの人や角膜の形状に強い変化のある人、神経質な人などではどうしても異物感が気になる人がいる。しかし、ソフトCLよりも矯正効果が高く、レンズの取り扱いが簡便で破損しにくいため経済的である。目の安全性を考えると酸素透過性の高いレンズがよいが、酸素透過性が高くなるとレンズが軟らかくなるため、傷がつきやすい、破損しやすい、汚れやすいというデメリットもある。
ソフトCLは水分を含む軟らかいレンズなので装用感はよいが、汚れがつきやすく、時には細菌やカビが繁殖することもある。そのため毎日の洗浄と消毒が必要で、いい加減なレンズケアを行うと重篤な障害を生じることがある。こうしたレンズケアを少しでも簡便にするために、古いレンズは使い捨てて新しいレンズを定期的に交換するようにしたのが、使い捨てレンズや頻回交換レンズである。使い捨てレンズはその名の通り、目から外したら再び目に入れないで捨てるレンズで、ケアは不要である。1日限りで捨てるものと最長1週間を限度とした連続装用が可能なレンズの2種類がある。ただし、連続装用は目にとっては大変負担があり、時には重篤な障害を起こす危険がある。頻回交換レンズはレンズを装用して外した後は洗浄と消毒をして再使用する。レンズの使用は最長2週間を限度として、使用後は捨てて新しいレンズと交換する。消毒は煮沸消毒あるいは化学消毒を行うが、最近では化学消毒が増えている。使い捨てレンズや頻回交換レンズは従来のソフトCLに比べると酸素透過性の高い材質でできており、レンズが汚れる前に交換されるため、目にとってはより安全だと考えられ、その簡便な取り扱いと相まって、年々使用する人が増えている。




2.レンズケア

CLのケアの目的は、使用したレンズをきれいに保つことである。ハードCLのケアには、基本的には『洗浄→すすぎ→保存』という3つのステップがあり、ソフトCLのケアには『洗浄→すすぎ→消毒→保存』という4つのステップがある。ソフトCLに消毒というステップがあるのは細菌やカビ、アメーバなどが増殖しないようにするためである。さらに、たんぱく質の付着に対してたんぱく除去を必要とすることもある。使い捨てレンズの場合、レンズを目から出したらすぐに捨てるので、ケアはまったく必要ない。それ以外のレンズではケアをしなければならない。
ところで、最近はケア用品も種々なものが市販されているが、製品によって洗浄効果や消毒効果は異なる。また、CLの種類によってもケア方法が異なる。したがって、処方した眼科医から最適なレンズケアの指導を受けることが大切である。

3.CLによる障害

CLによる障害は、主として黒目(角膜)と白目(結膜)に生じる。角膜の表面を上皮というが、この上皮の障害は深さによって重症度が異なる。最も浅い障害を点状表層角膜症,上皮が欠損した状態を角膜びらん,上皮を越えた深い障害を角膜潰瘍という。障害が深くなればなるほど、治るまでに時間がかかり、最悪の場合には失明に至ることもある。CLの使用によって、1.酸素不足が生じたり、2.角膜に傷がついたり、3.感染を起こしたり、4.目が乾燥したり、5.アレルギー反応を生じるなどの障害が起こる。

1.角膜に酸素不足が起こると、まず周囲の結膜の血管が拡張して、角膜に血液や酸素を補充しようとする反応(充血)が起こる。それでも酸素が足りないと角膜上皮は浮腫状態に陥る。不規則にCLを使用している人が急に長時間装用したり、装用したまま眠ると、角膜びらんを生じることもある(図1-a,2-a)。また、酸素不足が慢性化すると角膜の周辺部に血管が侵入したり(図2-b)、角膜の内側にある細胞(角膜内皮細胞)に障害を起こす。角膜内皮細胞障害がひどくると、CLを使用できなくなるだけでなく、角膜の透明性が維持できなくなる。

2.CLと角膜の間に異物が入ったり、破損したCLを目に入れたり(図1-b)、ひどい汚れが付着したレンズを入れた場合などに角膜に傷がつく(図1-c)。また、目に適合していないカーブやデザインのCLを装用しても角膜に傷がつくことがある(図2-c)。

3.角膜の上皮障害に細菌やカビ,アメーバが感染すると重篤になる(図2-d)。ハードCLではこうした感染症はほとんど起こらないが、ソフトCLでは装用感がよいため発見が遅れ重症化する。アカントアメーバによる感染症は、水道水や井戸水を使った自家製生理食塩水が主な原因である。また、使い捨てレンズを使用した後、捨てないで再使用したためにアカントアメーバ角膜炎を生じた報告もある。

4.CLを装用するとCLは周囲の涙を吸引するので、目が乾きやすくなる、このため角膜や結膜に障害を起こすことがある(図1-d,2-e)。とくにハードCLの使用者で結膜の横の部分が赤く充血している人がいる。診察すると、結膜だけでなく角膜にも点状表層角膜症を生じていることが多い(図1-d)。

5.CLの汚れにより、上まぶたの裏側の結膜にアレルギーの反応が起こる。乳頭というブツブツが結膜にでき(巨大乳頭結膜炎)、目がかゆくなったり、目からの分泌物が多くなる(図2-f)。
こうしたCLによる眼障害の多くは、その原因によって特徴的な所見を示す(図1,図2)。そして、その原因を究明し、適切な対処をしないと、再びCLを装用すれば障害は再発する。
重症な眼障害を起こした症例を提示する。ソフトCLを使用していた19歳の男性である。視力は0.01も見えないほどで、図3のように黒目(角膜)の中央部に潰瘍を認めた。細菌性角膜潰瘍と診断され、抗生剤の大量投与が行われた。角膜潰瘍は瘢痕治癒し失明は免れたものの、0.3以上の視力は得られなかった。19歳という若い健康な男性がどうしてこのようなひどい角膜潰瘍を起こしたのか、その原因として以下のことが問題視された。

1. 1カ月前に眼科専門医不在のCL量販店でレンズを購入した。
2. レンズは水分をあまり多く含まない従来型ソフトCLであった。
3. 購入時に十分な説明・指導を受けなかった。
4. 装用時間は1日15時間以上で、連続装用できないレンズでありながら連続装用をするときもあった。
5. 調子が悪いと感じながらもレンズを外さなかった。
6. 眼鏡を持っていなかった。
7. 消毒は過酸化水素消毒を使用していたが、取り扱い説明書の通りに洗浄や消毒をしていなかった。
8. 使用していたレンズおよびレンズケースの確認をしたところ、汚れていた。
9. 定期検査は受けていなかった。

このようなことにならないように、レンズを購入する際には眼科専門医による検査と十分に説明を受け、正しい装用とケアを行い、定期検査を必ず受けるようにしなければならない。



4.CLによる障害の動向

1)日本眼科医会のアンケート調査
日本眼科医会が平成10年1月20日から平成12年3月31日までの期間にCLによる眼障害調査を行ったが、全国で9,121件の眼障害例が報告された。眼障害を起こした患者さんの60%以上が、いわゆるCL量販店,眼鏡店,通信販売などの眼科専門医が関与しない施設でCLを処方・購入していた(図4)。こうした施設でCLを購入した人の70%以上は処方後に定期検査を受けておらず、「CL使用上の正しい指導や教育が行われていない,目の異常が起こった場合にも十分な対処を受けていない」ということが報告された。CLの種類別に眼障害の発生率をみると、ソフトCLによるものが70%以上で、安全と考えられている使い捨てレンズや頻回交換レンズの障害も数多く報告された(図5)。眼障害を起こす原因として、長時間の装用、不適切なレンズの洗浄や消毒など、使用者の装用やケアに関することも問題になった(図6)。



2)厚生省の『医薬品・医療用具安全性情報161号』
平成12年7月26日に厚生省(現在の厚生労働省)は、CLが原因の眼障害が多発しているとして『医薬品・医療用具安全性情報161号』を出し、CL使用上の注意を促した。同省が研究対象とした医療機関における1年間の眼科救急外来受診者約2,200人について調査したところ、約210人もの人がCL装用による目の障害を起こしており、CLを装用したままの睡眠など長時間の装用が原因とされるケースが60件以上、消毒・洗浄方法の不適切によるものが40件以上もあった。なかには使い捨てレンズを繰り返して使用し、保存液に用いた水道水のアカントアメーバが増殖したのが原因とみられる角膜潰瘍で、角膜移植が必要となったケースもあった。同省は、安全対策として定期検査に加え、1.レンズの洗浄・保管はレンズケア用精製水を用いる、2.レンズを保存液で長期間保管した場合、細菌増殖の恐れがあるため適切な処理を行う、3.使い捨てレンズは定められた装用時間を守り、就寝時には外すなどを挙げた。

3)国民生活センターの『コンタクトレンズによる危害の防止について』
平成12年12月27日に国民生活センターも厚生省(現在の厚生労働省)や日本眼科医会,日本コンタクトレンズ協会などに対して、CLによる障害の防止について要望・情報提供を行った。詳しい内容以下の通りである。

●実施理由
CLを装用していて、目に何らかの異常が起きたという危害情報が1993年4月以降518件寄せられている。CLは目の中に入れて使う医療用具であり、安易に取り扱うと重い目の障害も引き起こしかねない。そこで、CLの危害の実態と消費者への注意事項をまとめた。

●結果・現状
CL,メガネ,補聴器など『医療用具』の全相談件数に占める危害情報の割合は少ないが、CLに限ってみると危害の割合が非常に高い。性別・年齢別では20歳代の女性に圧倒的に多い。自覚症状としては、「充血して痛い,異物感がある」など複数の症状を訴えている例が多い。CLの種類にはハードCL,ソフトCL,使い捨てレンズがあるが、ソフトタイプに危害の割合が多かった。

●問題点
CLは、医師の診察を受けて購入するのが望ましいが、「医師の診察を勧められなかった」,「自分の目に合わないレンズだった」,「取り扱い方法など説明が不足していた」など購入に際して問題がある場合が多い。また、使用者自身が定期検査をまったく受けていないなど使用者側に問題のある例、さらにレンズが破損していたなどレンズ自体に問題がある例も少なくない。

●要望内容
1.CLメーカー・販売店に対しては(1)販売店の店員のCLの取り扱い方法や洗浄方法などの説明が不十分だったため危害を受けている例があるので、消費者に納得のいく十分な説明と、適切なアフターケアを充実させること,(2)医師による指示・指導が重要であることを関係者に徹底するとともに購入者にも十分に説明すること,(3)販売店によるCLのチラシや雑誌広告などを見ると、「医師の検査・処方を受けること」という項目が目立たない場所に小さく書かれている場合が見受けられる。誰にもわかるような大きく見やすい文字で表示すること。
2.行政に対しては目の障害などを早期に発見するためにもCL購入時および定期的に医師の診察を受けるよう関係業界および消費者によりいっそうの注意喚起をしてほしい。

4)山口県内の高校生のCL使用状況について
山口県内の9つの高等学校(5,242名)を対象として、CLの使用状況の調査を行ったところ、CLの使用者は全生徒の26.8%で(図7)、CLを使用している生徒の39.4%がこれまでに調子の悪かったことがあると回答しており、見えない,疲れる,痛い,かゆい,異物感,充血,乾く,くもる,ずれるといった苦情が多かった(図8)。また、60%以上の生徒が眼科専門医の関与していない施設でCLを購入しており、定期検査を受けていない生徒は60%以上であった。



5.CLによる障害を起こさないための使用者の注意点

まず、信頼のおける眼科専門医を受診し、詳しい説明を受け、目に合った適切なCLを処方してもらうことが第一である。そして、取り扱い説明書をよく読み、指導された正しい使用方法を必ず守ることが重要である。不規則な装用や連続装用などの無理な装用は避け、連続装用できないレンズを連続装用したり、使い捨てレンズや頻回交換レンズの使用期限を越えて使用するなど目に負担をかける装用は絶対にしてはならない。また、正しいレンズケアを毎日必ず行わなければならない。その際に手の汚れについても注意する必要がある。レンズに触れる前には必ず手を洗わなければならないが、特に女性の場合は化粧品やハンドクリームを使用した手でレンズを触らないことや、爪でレンズを傷つけないように注意してほしい。さらに、できるだけ目に負担をかけないようにきちんと度の合ったメガネを持ち、CLとメガネを上手に併用していくことが望ましい。最後に、目の障害などを早期に発見するためにも定期検査を必ず受け、わからないことがあれば眼科専門医に相談し、適切な対応をしてもらうことが必要である。

終わりに

使い捨てレンズや頻回交換レンズの普及に伴い、今後ますますCLユーザーの増加が予想されるが、これに伴いCLを単なる生活用品であるという考えや『使い捨てレンズは安全』という誤った認識が広がることも懸念される。実際に、医師による診察を受けずに通信販売やインターネットで安易にCLを購入する人が増えている。ユーザーの立場からすると、1.診察・検査を受けないため待ち時間が不要、2.診察・検査の代金が不要、3.自宅で注文ができるため通院費(交通費)が不要、4.通信販売による注文のため休日・平日・時間帯を問わず注文が可能、5.低価格などの利点があるからであろう。しかし、CLは視力補正の医療用具として厚生省(現在の厚生労働省)から認可されたもので、CLを入手するには眼科医の診察が必要である。また、CL自体は目にとって異物であるため、適切なCLを選択し、規則正しいケアを行わないと何らかの障害が起こることがあり、その使用にあたっては、眼科医の管理と指導を必要とする。自分では調子がよいと思っていても、診察すると異常所見を認めることがありうるので、定期検査を必ず受けなければならない。もし目に異常を感じた場合にはできるだけ早く受診をしなければならない。
CLを若いうちから使用し始めると、一生を通じてのCL使用期間が長くなり、使用期間が長ければ長くなるほど眼障害が発生する可能性は高くなる。したがって、若年者に対するCL処方,取り扱い指導,処方後の管理は特に重要で、学校現場において、学校医,養護教諭,保護者の連携による学校保健教室や様々な講習会の開催などの積極的な啓発活動を行う必要がある。